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「たかが包装」が経営リスクになるPPWRの真実

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シニア・コンサルタント

細山田 優

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はじめに

2025年12月現在、欧州向けビジネスを展開する多くの日本企業が、ある重大な規制への対応に追われています。それが「PPWR(EU包装・包装廃棄物規則)」です。
“包装の規制?それなら資材調達部門や包装設計の担当者に任せてあるよ” もし、経営層や物流責任者であるあなたがそう考えているとしたら、それは極めて危険な兆候です。なぜなら、PPWRは単なる「廃棄物を減らすための環境規制」ではなく、対応を誤れば「製品がEUの国境で止められ、強制返送される」という、強烈な非関税障壁となり得るからです。
本ブログでは、株式会社NX総合研究所が持つ最新の知見に基づき、多くの荷主企業が見落としている「物流視点でのPPWRリスク」と、2026年から始まる激動のロードマップについて解説します。

第1章 包装の定義

まず、皆様に問いかけたいことがあります。御社の製品における包装とは何ですか?段ボール箱、緩衝材、パレット、これらが思い浮かぶのは当然です。しかし、PPWRにおける定義はもっと広範で、かつ複雑です。
PPWRでは、包装を「封入(Containment)」「保護(Protection)」「取り扱い・配送・提示(Handling, delivery or presentation)」の3つの機能を持つものと定義しています。

生産資材も「包装」とみなされる

ここで多くの企業が足元をすくわれるのが、「製品の一部ではないが、物流や生産ラインへの投入に必要な資材」の扱いです。例えば、電子部品や半導体を巻いている「リール」や「スプール」、あるいはフィルムの「芯」。これらは顧客の工場で製品(部品)が使用された後、不要となって廃棄、あるいは回収されます。
PPWRの解釈において、これら「製品の寿命よりも短く、製品使用後に分離・廃棄される資材」は、規制対象の「包装」とみなされる可能性が極めて高いのです。プリンターのトナーカートリッジのように製品の一部として機能するものは除外されますが、半導体リールといったものはその限りではありません。
もし、御社が「あれは生産補助材だから関係ない」と放置していた場合、その資材の素材データが開示できなければ、製品そのものがEU市場に入れない事態を招きます。これが、PPWRが「サプライチェーン全体の問題」である最初の理由です。

第2章 再生材(PCR)義務化が招く「物流コスト増」の矛盾

PPWRの柱の一つに、「再生材(PCR:Post-Consumer Recycled)含有率の義務化」があります。環境配慮の観点からは素晴らしいことですが、物流の現場視点で見ると、これは厄介なトレードオフを引き起こします。

「強度の低下」が積載効率を破壊する

再生材の比率を高めると、一般的に素材の強度は低下する傾向にあります。強度が落ちた段ボール箱で、これまでと同じように製品を保管・輸送できるでしょうか?
答えは「No」である場合が多いでしょう。箱の強度が下がれば、倉庫での段積み数(スタッキング)を減らさざるを得ません。段積みができなくなれば、保管スペースは倍増し、トラックやコンテナへの積載効率は劇的に低下します。
結果として何が起きるか。「環境のために再生材を使ったら、トラックの台数が増えてCO2排出量と物流コストが増加した」という、笑えないパラドックス(矛盾)が発生するのです。

空隙率規制という「運び方」への介入

さらに、PPWRでは「過剰包装の抑制」として、空隙率(箱の中の隙間)の規制も強化されます。これは「箱のサイズ適正化」を強制するものであり、トラックやコンテナの積載シミュレーションを根本からやり直す必要性を意味します。

つまり、PPWR対応とは、単なる「材料変更」ではなく、「輸送モードや保管効率の再設計」そのものなのです。

第3章 デジタルパスポート(DPP)という関所

「素材を変えれば終わり」ではありません。次に待ち受けるのが、情報管理の壁、「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」です。
近い将来、EU向けの包装材には、その素材構成、重量、再生材含有率などの詳細なデータを紐づけることが義務付けられます。これを管理・提示できなければ、物理的に製品が良いものであっても、コンプライアンス違反となります。

放置すれば待ち受ける4つのリスク

PPWRへの対応を怠った場合、企業には以下のリスクが降りかかります。

✓EU側での受入拒否:通関や現地倉庫で貨物がストップします。
✓拒否された貨物を日本や第三国へ戻すための輸送費が発生します。
✓取引停止:コンプライアンスを重視するEUの顧客から、サプライヤー認定を取り消されます。
✓金銭的な罰則:EU各国が高額な罰金を導入する可能性が高まっています。

パスポートを持たない旅行者が入国できないのと同様、DPPに対応できない製品は、EU経済圏から締め出されるのです。

第4章 残された時間はわずか、2026年からのロードマップ

では、具体的にいつ、何をすべきなのか。2026年1月の今、我々はすでに「待ったなし」の状況にいます。以下は、NX総合研究所が推奨する対応ロードマップです。

フェーズ1:現状把握(2026年前半)

まずは「敵を知り、己を知る」段階です。
① 包装材の全量棚卸:見落としがちな部材(リール等)を含め、EUに向かう全ての「包装」を洗い出します。
② 詳細データ収集:サプライヤーに対し、重量、素材、PCR含有率のデータ提供を要請します。これは一朝一夕には終わりません。サプライヤー側もデータを持っていない場合が多いからです。

フェーズ2:データ管理基盤の整備(2026年後半)

集めたデータを管理し、出力できる体制を作ります。
③ DPP対応:将来的なデジタルパスポート技術仕様の公開に備え、報告フォーマットへの出力準備を進めます。
④ システム改修:自社の商品マスタと包装仕様データを紐づけ、欧州向け出荷データの可視化を行います。

フェーズ3:包装仕様改善・対策(2027年以降)

データに基づいて、実際のモノを変えていきます。
⑤ 仕様変更とテスト:脱プラスチック、単一素材化、軽量化を進めます。
⑥ 輸送試験:仕様変更した包装材が、実際の輸送に耐えられるか(強度は十分か)をテストし、EU顧客の承認を得ます。

2028年以降には、再生材含有義務などが本格的に適用開始される見込みです。逆算すれば、2026年中にデータ基盤を作らなければ間に合いません。

第5章 PPWRを「サプライチェーン進化」の好機とせよ!

PPWRは確かに厳しい規制ですが、見方を変えれば、自社の包装仕様とサプライチェーンを根本から見直し、無駄を削ぎ落とす絶好の機会でもあります。「たかが包装」と侮らず、今すぐプロジェクトチームを発足させてください。法規制への適合と物流コストの最適化、この二兎を追うことこそが、これからの欧州ビジネスにおける競争力の源泉となるはずです。
もし、どこから手をつければよいか迷われたら、NX総合研究所にご相談ください。「物流」を熟知したプロフェッショナルとして、貴社のPPWR対応を実務面から支えます。

(この記事は2025年12月17日時点の状況をもとに書かれました。)

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