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ジョホール・シンガポール経済特区(JS-SEZ)の展望と世界の経済特区との比較

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1.経済特区とは?

経済特区(Special Economic Zone/SEZ)とは、特定の地域に特別な経済制度や税制を適用し、政策目標の達成を促すために設けられた区域のことを指します。例えば、企業が参入しづらい産業に対して、規制緩和や関税優遇、通関簡素化などを用意することで、企業活動のハードルを下げ、投資を呼び込むことが狙いとなります。
経済特区の役割は単に工業団地を整備することに留まらず、特定の地域を国家戦略の実験場とし、外資導入や産業高度化、輸出の強化、雇用創出を推進する仕組みとしても位置づけられています。深圳(シンセン)の産業集積、ドバイの港湾物流機能など、世界の成功事例を見ると、経済特区は都市そのものの性格を根本的に変えるほどの影響を持つ場合があります。

2.経済特区の利点・注意点

経済特区の最大の利点は、企業と人材を引き寄せる点にあります。経済特区内では税制優遇や規制緩和がされるため、企業は通常より低いリスクで事業展開を始めることができます。また、知識や技術が経済特区に流入し集積することにより、新たな技術発展にも繋がることも見込まれます。
一方で、経済特区地域における政治的・法的な不安定性や、経済特区の継続性は、進出を検討する際に考慮しなくてはいけないリスクとなります。経済特区への進出は大きなメリットを享受できる可能性がある一方で、リスク評価・管理を含めた戦略立案が必要となります。

3.シンガポール・ジョホールバル経済特区(JS-SEZ)について

2025年1月7日にシンガポールとマレーシアでジョホール・シンガポール特別経済区(JS-SEZ)に関する協定が締結されました。ジョホール州はマレーシア南部に位置し、シンガポールに隣接しています。ジョホール・シンガポール経済特区では、シンガポールや第三国から11の経済セクター(製造業、物流、食料安全保障、観光、エネルギー、デジタル経済、グリーン経済、金融サービス、ビジネスサービス、教育、医療)への投資促進・産業誘致を行う計画が進んでいます。
シンガポール・ジョホールバル経済特区が注目を集める理由は、まず両都市の役割分担が極めて明確な点にあります。シンガポールは法制度、国際金融、研究開発、航空・海運のハブとして世界有数の競争力を持ちますが、土地や労働力に制約があり、コストも極めて高い都市です。一方で、ジョホールは土地の余裕があり、製造業の受け皿としての労働力確保も可能となります。そのため、シンガポールで企画や高付加価値業務を担い、ジョホールで生産・組み立て・研究支援を行うといった、二都市補完型の産業構造が成立します。
さらに、2026年から運行予定の高速鉄道RTS Linkにより、両都市の人的移動を大きく変えることが見込まれています。ジョホールとシンガポール北部を高速鉄道で結び、税関手続きも駅構内に統合される設計となっているため、通勤や人材移動の障壁が極めて低くなります。シンガポールの企業がジョホールへオペレーションを移転することとジョホールに住む人々がシンガポールで働く生活モデルが構築されることにより、経済特区としての実効性は大幅に高まると考えられています。

4. 類似モデルの深圳経済特区との比較

ジョホール・シンガポール特別経済区(JS-SEZ)は深圳経済特区と類似されているといわれ、“第二の深圳”、“東南アジア版深圳”と呼称されることもあります。そのため、ジョホール・シンガポール特別経済区(JS-SEZ)と深圳経済特区の類似点・相違点を確認してみたいと思います。

まず、両経済特区共に国境を跨いだ産業圏をつくる点で類似性があります(シンガポール×ジョホール、深圳×香港)。シンガポールとジョホールのそれぞれの役割は上述した通りで、お互いを補完し1つの都市のように経済圏を拡張していく関係にあります。一方で、深圳と香港は同じように都市機能を分担したものの、その関係は時間とともに変化しました。香港は国際金融センターとして資本市場や法制度の信頼性を提供し、深圳は製造業集積を軸に成長を始めました。しかし深圳は外資依存にとどまらず、自ら研究開発力を高め、EV、AIといった高度産業の発展を遂げました。結果として深圳は香港に依存する都市ではなく、単独で世界市場に挑む都市へと変わりました。両経済特区を以下の通り整理します。

類似モデルの深圳経済特区との比較

5.最後に

ジョホール・シンガポール特別経済区は、単一都市の開発ではなく、都市の役割分担と生活圏の統合を前提としたものです。シンガポールは高度な制度・金融基盤を提供し、ジョホールは土地・人材を背景に製造や生活圏を受け持ち、二都市が互いに補完することで、経済規模の発展を促進する構造となっています。
4章で記述した通り、ジョホールは深圳初期の“外部資本の流入と産業の形成期”に類似しています。RTS Linkの開業や特区制度の具体化が進むと、産業と人口の移動が本格化し、ジョホールの都市性質を大きく変化させる可能性があります。今後も引き続きジョホール・シンガポール特別経済区の成長に注目です。

(この記事は2025年12月1日時点の状況をもとに書かれました。)

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