物流センターの自動化は課題を認識して優先順位をつけることから
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日本だけでなく世界では業種を問わず、各種業務に自動化の仕組みを取り入れる企業が多くなっています。でもいざ自分たちの事業の中に自動化の仕組みを導入しようとすると、どこから手を付ければよいのか迷うことはないでしょうか? 予算確保もしないといけないし、現場の仕組みを変えるために関係者を説得する必要もあるし、ROI向上は必須だし等、いろいろと考えればきりがありません。そこで今回は物流センターでどのように自動化へ取り組んでいけばよいのか、という点について触れてみます。
「自動化」といっても、お客様との接点を自動化する、バックヤードの作業を自動化する、事務作業を自動化するなど、あらゆる工程で自動化は考えられます。
もしあなたが、これまで自動化の仕組みを取り入れたことがないのであれば、最初にバックヤードの作業を自動化してみてはどうでしょうか?お客様との接点(受付や配達のような)ですと、技術的に実現可能にはなってきていますが、人対人のコミュニケーションといったハード面よりもソフト面での仕組みづくりが必要になります。事務作業は、自動化しやすい部分も多いのですが、(だからRPAが注目されているのです。)、物流業務だけで完結しないケースも多々あります。加えて、お客様ごとで異なった帳票やルールがあるなど、調整がなかなか大変です。(これらはRPAのパッケージにまかせればだいぶ解決できると思います。)
オペレーションの自動化は物流のタイプ別に考える
そのような点から、まずはオペレーション自動化の取組を考えていきましょう。最初に物流センターでの課題・優先したいものを考えてみてください。
コスト削減ですか? 省人化ですか? スループット向上ですか? 他社との差別化ですか? “でも、これらすべてが当てはまるんだよね”という声もよく聞きます。
もちろんそうなのですが、ある程度は優先順位をつけないと自動化モデルはいつまでたっても決まりません。まず我々が着目するのは、取り扱っているものが何か(何かというより、サプライチェーンの中でも川上に近い物流ですか?川下に近い物流ですか?)という点です。
川上に近い物流ですと、(俗にいう原料系ですね)リードタイムは川下の物流ほど厳しくなく、取扱うものが規格化されているケースも多くなります。メーカーなどは自分たちで作った製品を扱うので管理し易い部分も多くありますね。またリードタイム短縮よりも携わる人を極力減らしたい、能力アップをしたいといった要望の方が強いのではないでしょうか。
一方で川下に近ければ、(流通系)リードタイムは厳しいし、主種雑多なメーカー品を扱うなど品目も多様化しますので作業も細分化されてしまうでしょう。
そういった背景からすると、川上系の物流センターでは、完全自動化へ一気に舵を切るプランも十分想定されます。すでに工場などでは作業標準化や自動化機器の導入が進められていることもあり、その考えを物流センターへ持ち込んで、全行程を自動化対象にしてみることです。完全自動化センターであれば、入荷~出荷までのフローについて一気通貫でプランを組み立て、その中でシステムとの連携を図っているので全体最適に繋がりやすく理想的です。
しかし、課題としては、費用面と需要変動/製品ラインアップの変更でしょう。費用面は他社との差別化のアピールや将来への投資(ノウハウ蓄積)といった側面があるので一概に是非は判断できませんが、需要変動・製品ラインアップ変更などについては、どこまで対応できるかによって、自動化しない方がいったベターかということも想定されます。そのため、フルライン自動化センターであっても、必要に応じて部分的にマシンの変更やシステムの変更が可能かといった柔軟性も要求されるでしょう。
一方、川下系の物流では、いきなりフル自動化はハードルが高いと考えています。なぜなら、前述したように多品種のものを扱い、かつ取扱う製品の変更なども頻繁に行われるため、人で対応した方が効率的な部分が多いからです(ただ、将来的には人と同等の能力をもつシステムも実現するでしょうから、その時には状況は変わっているかもしれません)。
そのため、一部の特定工程に着目して優先度をつけて進めることがベターだと考えられます。特定というのは、ボトルネックとなる工程もしくはセンター内でも多くの人員を要する工程ですね(人数が多いということはボトルネックになり得るということでもあります)。
その中でも最近注目されるのは、やはりピッキング作業です。GTP( Goods To Person )の導入が進んでいるように移動距離も長く、多人数が従事するからです。GTPでも自動倉庫のようなものから、モバイルロボットが動き回るものまちまちです。ただ、ハンドリング部分は最後まで非自動化が残る工程であると考えられるため、逐次人間との協調作業に落とし込みながら進めるしかないでしょう。(もちろん様々な機能を持ったロボットもありますが、汎用性といった側面からは、本格的な実用化にはまだ数年はかかると思いますので、まずファーストステップは搬送部分、その後ハンドリング部分でも十分だと思います)
我々は、このような考えを基に自社のセンターの特長を見極めていきながら段階的に進めることを推奨しています。以下に物流タイプ別に要点をまとめてみました。
【川上系の物流】
- 条件によっては、一気に全自動化まで検討することが望ましい。工場の延長として。
- ただし、各工程では部分的なバージョンアップなど柔軟な対応ができること。
- 作業負荷の大きいオペレーションも多いので、その点にフォーカスすると、現場の理解も得やすい。
【川下系の物流】
- まずは、ボトルネックの自動化を繰り返すといった進め方で段階的に自動化推進。技術発展を待っていると立ち遅れる。
- 物量変動も大きいので、汎用性が高くユニットタイプのような増備可能なものが望ましい。
- 物量が少ない場合、共同化(複数企業間)、集約化した上での自動化プランを検討する。
<参考> COVID-19の影響は
最後に、現在猛威を振るっているCOVID-19が今後物流自動化へどう影響していくのかについて考えてみましょう。
現在、社会経済が停滞する中で、短期的に見れば自動化への投資が減少し、欧米メーカーは、注文が激減しているようです。加えて中国からの部材の供給も滞り、自動化へのブレーキがかかるのは明らかといわれています。(参考:Interact Analysis社の調査資料より)
中長期的にみると、人々の生活形態が変わる中で、物流への影響が大きくなるのは流通系の物流となります。衛生面の問題を重要視することなどで、人との過度な接触を避けるなど常態的な購買行動が変わる可能性があるからです。
それにより、Eコマースはさらに加速して市場が拡大するかもしれません。すでにイギリスのあるECグロッサリーのウェブサイトは大量注文で何回もダウンするという状況も起きました。販売数が増加するのは良いが物流センター能力がついていけなくなるのでは?といった不安は完全には払拭できていません。
センターのスループットを急激に上げるには、多くの作業者の投入が必要になることは明確です。しかし、一方で、現実的に人を多く配置できない環境におかれている点も挙げられます(多くの人が接触を避ける意味もありますし、労働力確保の困難さという意味もあります)。その解決策として、川下系の物流では、今後自動化センターが一気に増えることになると考えられます。でもこれから検討されるセンターも多いと想定されることから、検討・機器の導入などのプロセスを考えると、その実現は2021年以降になると思いますが。
またCOVID-19は今後、集団免疫の形成、ワクチンの完成で流行り病のようになっていくものと思われます。こういう社会の変化が物流にどう影響するかといった観点から、どこにフォーカスして自動化を進めていくか検討することは重要です。
5年後には、物流事業者がどこまで自動化に対応できるかといった点が生き残る大きな要因になるような気がします。また、次の機会には自動化サプライヤの比較評価についてもご紹介しようと思っています。
(この記事は2020年5月7日の状況をもとに書かれました。)
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