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14億人市場を動かす!インド物流の今と未来

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はじめに

インドの人口は14億人を超え、世界第1位となりました。経済面でも成長が著しく、現在のGDPは世界第5位ですが、2025年には日本を抜いて第4位に、2027年にはドイツを抜いて第3位になると予測されています。

さらに、インドは若年層の人口が多く、今後も労働力人口の増加が期待されています。IT産業やスタートアップ分野でも世界的な注目を集めており、多くのグローバル企業がインド市場への進出を進めています。このような背景から、インドは経済成長や市場拡大の面で、現在最も注目されている国の一つです。

そこで本稿では、インドの国内物流事情について概観します。

インド国内物流の全体像とモーダルシフトの動向

インドの国内物流は、道路輸送が貨物輸送の主要な手段となっており、2020年時点で全貨物輸送量の70%程度を占めています[1]。鉄道は17.5%、海運・パイプライン・航空が残りの11.5%を担っています。道路輸送が優位である理由は、広範な道路ネットワークと高い柔軟性にありますが、環境負荷や効率性の観点から、インドでも鉄道や海運へのモーダルシフトが求められています。

鉄道の貨物輸送シェアは、1951年の85%[2]から2020年には17.5%にまで減少しましたが、インド政府は2030年までに鉄道のシェアを45%に引き上げる計画を進めています。これは、国別削減目標(Nationally Determined Contributions: NDCs)に基づく取り組みの一環となっています。鉄道の利用促進は、環境負荷の軽減だけでなく、輸送効率の向上やコスト削減にも寄与する重要な施策とされています。

以下に、インドの各輸送機関に加え、コールドチェーン、eコマース、物流DXについても紹介します。

道路貨物輸送とインフラ整備の進展

道路輸送はインド物流の中心的役割を担っており、道路の総延長は約667.1万kmに及びます。このうち、国道が約14.6万km、州道が18.0万kmを占め、残りの約95%は地方道や都市道などが構成しています[3]。国道は主要な動脈として機能しており、国道開発プロジェクト(NHDP)やバラトマラ・パリヨジャナ(Bharatmala Pariyojana)などの政策によって、道路インフラの整備が加速しています。

国道の延長は2014年の91,287kmから2024年には146,145kmへと大幅に増加し、4車線以上の道路も同期間で2.5倍に拡大しました。舗装率は2019年時点で64.7%に達していますが、デリー中心部や主要高速道路は多車線・中央分離帯付きで日本の道路と遜色ないほど整備されている一方、地方道や都市道を中心に舗装率が低く、路面の悪さや冠水、牛など動物の通行、交通渋滞など多くの課題が残っています。

国道開発プロジェクトでは、インドの主要4都市(デリー、ムンバイ、チェンナイ、コルカタ)を結ぶ「黄金の四角形」や南北回廊、東西回廊などの整備が進められています(図表1参照)。

図表1 インドの「黄金の四角形」および南北回廊、東西回廊(概略図)

図表1 インドの「黄金の四角形」および南北回廊、東西回廊(概略図)

注)地図上の点線は道路路線の概略を示しており、実際の道路とは異なります。
出所)白地図専門店に加筆

鉄道貨物輸送の現状と専用回廊(DFC)

インドの鉄道は世界第4位の規模を誇り、2022-23年度の貨物輸送量は年間15億トンを超えました[4]。鉄道ネットワークは68,043kmに及び、主要ルートは広軌(1,676mm)で構成されています。電化率も広軌ネットワークでは74%に達しており、環境負荷の軽減にも貢献しています[5]

鉄道のモーダルシフトを促進するため、インドでは貨物専用鉄道(Dedicated Freight Corridors: DFC)の建設が進められています。DFCは前述の「黄金の四角形」ネットワークに沿って計画されており、旅客列車と分離された専用線を走行することで、長編成・高積載、さらにはダブルスタック輸送も可能となり、貨物列車による大量輸送が実現し、輸送能力の大幅向上が図られます(写真1参照)。

写真1 ダブルスタックトレイン

写真1 ダブルスタックトレイン

出所)ムンドラ港にて筆者撮影

海上貨物輸送と港湾開発

インドの海岸線は約7,517kmに及び、重量ベースでインドの貿易の約95%が海上輸送によって運ばれています[6]。インドにはインド政府が管理する12の主要港湾(メジャーポート)があり、原油・石油製品や鉄鉱石、石炭などのバルク貨物はディーンダヤル港やパラディプ港で多く取り扱われています。一方、コンテナ貨物の取扱量が多いのはジャワハルラール・ネル港(JNPT港)やインド最大級の民間港(ノンメジャーポート)のムンドラ港です。

ムンドラ港は世界のコンテナ港湾取扱量ランキングで第24位、JNPT港は第28位にランクインしており、インドの港湾が国際的な競争力を有していることがわかります(図表2参照)。なお、日本の港湾では東京港が46位、横浜港が68位となっています。

図表2 世界のコンテナ港湾取扱量ランキング(2023年)

図表2 世界のコンテナ港湾取扱量ランキング(2023年)

出所)Lloyd’s List: One Hundred Ports 2024 よりNX総研作成

港湾主導の開発を目指すサガルマラ計画(Sagarmala Programme)では、物流効率化と輸出競争力向上を目指し、2035年までに839件のプロジェクトが実施される予定です。この計画は、港湾の近代化、港湾接続、港湾主導の産業化、沿岸地域のコミュニティ開発、内陸水路輸送の5つの柱に基づいています。

航空貨物輸送の回復

インドの空港数は、2014年の74から2023年には148へと倍増しましたが、2024-25年度までに空港数をさらに220へ増やすことが目指されています。国際空港は17か所ありますが、今後は首都圏第2空港と位置づけられるデリー郊外のノイダ国際空港や、ムンバイ国際空港の機能を補完するナビ・ムンバイ国際空港などの建設が進められています。

航空貨物輸送量は2022年に316.3万トンに達し、COVID-19の影響から回復傾向にあります[7]。2021年の航空貨物取扱量(貨物・郵便)の世界ランキングでは、インドの空港ではデリーが第30位、ムンバイが第36位にランクインしています(図表3参照)。日本の空港では、成田が第9位となっているほか、羽田が第31位、大阪が第32位となっています。

図表3 インドの主要国際空港の貨物取扱量(2021年)

図表3 インドの主要国際空港の貨物取扱量(2021年)

注)貨物・郵便の計
出所)日本航空協会、航空統計要覧(2022年版)よりNX総研作成

コールドチェーンの発展と課題

インドのコールドチェーン市場は2024年に116億4,000万米ドルと推定されており、2029年には181億9,000万米ドルに達すると予測されています[8]。医薬品や農産物、加工食品などの需要が成長を牽引していますが、不十分なインフラや技術ギャップ、規制の複雑さなどの課題に直面しています。特に農村部では、シームレスなコールドチェーンネットワークが欠如していることが物流の障害となっています。

政府は「統合コールドチェーンおよび付加価値インフラ(Integrated Cold Chain and Value Addition Infrastructure)」スキームやメガフードパーク(Mega Food Park)スキームを通じて改善を図っています。

急成長するeコマースと物流への影響

インドでは「デジタル・インディア(Digital India)」プログラムの推進などにより、インターネットとスマートフォンの普及が急速に進み、電子商取引(eコマース)市場が急成長しています。2024年11月時点で、インドにおけるワイヤレスインターネット加入者数は約9億4,470万人に達しており、スマートフォンの普及台数も大幅に増加し、2025年度までに11億台に達すると予想されています[9]。これにより、インドのeコマース市場は大きく成長し、2030年度までに3,450億米ドル、2035年度までに5,500億米ドル規模に達すると見込まれています。

eコマースの主な企業としては、Amazon India、Flipkart、Myntra、Paytm Mall、Snapdealなどが挙げられます。

物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展

インドにおけるDX活用事例としては、配車マッチングアプリやラストワンマイル配送を含むプラットフォームの普及があります。また、IoTセンサーやデータ分析を活用した車両管理や運行最適化、医療分野でのサプライチェーン管理、ICTを用いたリアルタイムのコンテナ貨物追跡、機械学習による最適なフリートマネジメントなど、さまざまな分野でデジタル技術を活用した効率化が図られています[10]

外国企業によるインドのスタートアップへの投資も活発化しており、例えば、FedEx ExpressはインドのスタートアップDelhiveryと戦略的提携を結び、両社のネットワークとテクノロジーを融合させることで、インド国内外でより迅速かつ効率的な物流サービスの提供と、国際貿易の拡大を目指しています[11]

おわりに

インドの物流市場は、経済成長や人口増加、デジタル化の進展を背景に、かつてないスピードで発展を遂げています。道路、鉄道、海運、航空といった各輸送モードのインフラ整備が進む一方で、コールドチェーンやeコマース、物流DXなどの新たな分野でも大きな成長が期待されています。政府の積極的な政策支援や民間企業のイノベーションが相まって、今後も物流の効率化と高度化が進むでしょう。

一方で、インフラの未整備や技術的課題、地域間格差といった問題も依然として残されています。また、今回触れられなかった通関についても、手続きや書類の煩雑さ、税関ごとの運用の違い、システムやインフラの未整備、認証・評価制度の複雑さなど、多くの課題を抱えています。これらの課題を克服し、持続可能で強靭な物流ネットワークを構築することが、インド経済のさらなる発展の鍵となるでしょう。今後もインドの物流分野の動向に注目し、変化する市場環境に柔軟に対応していくことが重要といえます。

(この記事は2025年5月29日時点の状況をもとに書かれました)


  1. NITI Aayog, RMI, & RMI India. Fast tracking freight in India (p. 18)
  2. The Energy and Resources Institute, Strategies to Increase Railway’s Share in Freight Transport in India (p. 1)
  3. Press Information Bureauホームページ
  4. The Energy and Resources Institute, Strategies to Increase Railway’s Share in Freight Transport in India (p. 7)
  5. The Energy and Resources Institute, Strategies to Increase Railway’s Share in Freight Transport in India (p. 1, p,14)
  6. Ministry of Ports, Shipping and Waterways, Annual Report 2022-2023 (p.4)
  7. Ministry of Civil Aviation, Annual Report 2022 (p.115)
  8. Mordor Intelligenceホームページ (アクセス日:2025/5/26)
  9. India Brand Equity Foundationホームページ (アクセス日:2025/5/27)
  10. 経済産業省、東南アジア等・インド地域を対象にしたアジア DX 具体化に向けた実態調査(令和3年3月)(p.24)
  11. FedExホームページ (アクセス日:2025/5/27)

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