共同配送のかんどころ
このところ業務上で共同配送を考察する機会がいくつかありましたので、今回は共同配送について述べてみます。
はじめに
近年、トラックドライバーの確保が難しくなってきており、加えて労働時間の規制が強化されています。これは、社会全体で見ると、総輸送キャパシティが制限されるということを意味します。こうした状況の中で、企業単位としても、社会全体としても、効率的なトラックキャパシティの活用が求められます。
この状況を解決する手段の一つが共同配送です。すなわち、積載率の向上を図るということです。社会全体で見た総輸送キャパシティが減少する中では、その限られたキャパシティを可能な限り無駄なく活用しよう、ということになります。
そこで、本稿では共同配送の主な形態と特徴を分類し、推進するにあたっての課題を整理します。
共同配送の主な形態と特徴
まず、共同配送にはどのような形態と特徴があるでしょうか。
同業種・隣接業種間共同配送
これは、同業種や隣接業種の企業が輸送ネットワークを共有する形態です。製品特性が類似しているため、荷扱いや作業内容、温度管理などの共通点が多く、運営管理が比較的容易です。特に納品先や配送エリアが重なる場合、同じ輸送ルートに統合できるため、物流の効率化が期待できます。
具体例としては、コンビニ各社の商品配送、飲料、トイレタリー、化粧品、アパレル、雑貨などを小売センターや店舗へ届けるケースが挙げられます。また、オフィス街向けの文房具や食品の配送、スーパー向けのコールドチェーン、機械・素材・材料の幹線輸送、ミルクランによる集荷作業などが該当するでしょう。
しかし、課題も存在します。特に、ライバル企業間での協力の難しさや情報共有のハードルが大きな障壁となります。加えて、費用分担や責任分担が曖昧になることで、トラブルが発生するリスクも考慮する必要があります。また、需要変動が大きい業界では、物流を共同化することによって波動が増幅され、人員や設備の稼働を平準化するという本来の目的に反し、逆に効率が低下することもあり得ます。
異業種間共同配送
この形態は、異なる業種の企業が協力し、異なる種類の商品を同じ輸送便で配送するものです。製品特性や出荷特性が異なるため、ピーク時期が逆の商材を組み合わせる、重い商材と軽い商材を合積みするなどの工夫が可能となります。
これにより、異なるピーク時期を活用して輸送量を平準化する、重量勝ちと容積勝ちの商品を組み合わせるなどで積載効率を向上させることが期待されます。
具体的な事例としては、飲料メーカーと食品メーカーの幹線合積み、年度末に在庫量・輸送量がピークとなるインフラ系やオフィス用品、学校向け商材等と、夏から秋にかけてピークとなる夏家電やウインター系商材との共同配送などが挙げられます。
しかし、課題もあります。異なる輸送条件を調整する必要がありますし、温度管理や荷扱いの注意点などの違いを考慮しなければなりません。また、納品先が異なるため、配送ルートが非効率になりやすいという問題もあります。さらに、荷物の破損リスクやスケジュール調整の難しさといったリスクも伴います。
物流会社主導・社会インフラとしての共同配送
これは、広い意味で従来の宅配便や路線便を含みます。ある意味、共同配送は昔からあったのです。物流会社が複数の企業や利用者の荷物を集め、一括して輸送を行うことで、効率的な配送網を構築できます。利用者側にとっては、自社で物流管理を行う必要がなく、ノウハウも不要であるため、負担が少なく導入しやすい形態となります。また、物流会社が最適な配送ルートを設定できるため、異なる製品や業種であってもネットワークを活用して効率的な輸送が可能です。さらに、少量貨物にも対応できるため、物量の少ない企業にとってもメリットが大きいものとなります。
具体例としては、従来の宅配便や路線便、新しい取り組みとしてJITBOXなどが挙げられます。また、物流会社の枠をも超えた、さらに大きな取り組みとしての政府主導のフィジカルインターネットや自動物流道路の概念等もここに入るかもしれません。
しかし、この形態にも課題があります。物流会社の運営ノウハウに依存するため、利用者側のコントロールが難しくなります。また、「荷物を集める」「仕分ける」「配る」という工程が追加されることで、全体で見れば輸送経路数が増加します。そして結節点では積み替え作業が発生しますので、一般的には単価は高めになります。また、長距離輸送においては、拠点の整備が必要となることから、新たな投資が必要となる場合もあります。
マッチングのプロセス
このように、共同配送は、複数の企業が物流資源を共有し、効率的な輸送を実現する取り組みと言えます。では、どのようなプロセスを踏めば共同化が実現できるでしょうか。参加企業の状況や目的に応じて、以下のようなマッチングの手段が考えられます。
参加企業のいずれかの物流インフラを活用するパターン
まず、参加企業の中で物流基盤が強い企業の倉庫や配送ネットワークをベースとし、他社がそれを活用する方法があります。他社の荷物もまとめて輸送することで、コスト削減が可能となります。例えば、食品メーカーの配送センターを利用して納品先が重なる他社製品を共同配送するケースや、大手企業の物流網に中小企業が相乗りする形態が該当します。
課題としては、作業区分、費用区分、料金体系の設定によっては、主幹企業側と相乗り企業側の負担がアンバランスになる可能性があるため、公平なコスト分担の仕組みが必要です。
共同の新規インフラを構築するパターン
次に、複数企業が合同で投資したり、流通業者が主幹企業となって共同倉庫や配送拠点を新設する方法があります。この方法では、各企業のニーズに合わせた最適な物流網を構築でき、長期的なコスト削減効果が期待できます。具体例としては、メーカーが共同で物流センターを設立し配送効率化を図るケースや、卸企業が物流プラットフォームを開発する事例があります。
ただし、初期投資が必要であり、参加企業間の調整や運営ルールの整備が重要となります。
既存の物流事業者を活用するパターン
また、前述の通り既存の物流事業者を活用する方法もあります。これは、宅配便・路線便・3PL事業者などの物流企業のネットワークを利用し、複数企業の荷物をまとめて配送するもので、既存インフラを利用するため新規投資が不要であり、全国規模での対応が可能です。例えば、複数メーカーが共通の3PLを利用するケースや、EC事業者が宅配業者のサービスを利用する事例が挙げられます。
一方で、物流企業の運賃体系やルールに従う必要があり、柔軟な対応が難しくなります。
物流プラットフォームを活用するパターン
さらに、デジタル技術を活用した物流プラットフォームを利用する方法があります。オンライン上で配送マッチングや倉庫シェアリングを行うことで、既存インフラを最大限活用でき、小規模企業でも参入しやすくなります。具体的には、配送トラックの空きスペースをリアルタイムで共有・マッチングして相乗り配送を行うケースや、シェアリング倉庫を利用して季節変動に対応する事例があります。
ただし、比較的小規模な調整にとどまる場合が多いですし、利用者側にとってはプラットフォーム利用料が発生し、サービス提供者側にとっては需要が安定しない可能性があります。また参加者が増えなければ効果が出にくいという課題もあります。
このように、共同配送には既存資源の活用から新規インフラ構築、さらにはデジタル技術の利用まで多様な形態があり、目的や条件に応じた選択が求められます。
ただし、このマッチングが難しいのです。この利害が合致する「出会い」をどのように誘発するかが課題となります。
共同配送が簡単に進展しないのは
さらに、共同配送の実施には物理的な課題が存在します。例えば、保管場所を統合していない場合は、複数拠点での積み込みが必要となり、その順番や集荷時間、荷降ろし順を考慮した最適化・調整が求められます。また、荷合わせのための横持ちや複数個所での積み込みが必要となり、移動時間の増加や配送コストの上昇、リードタイムの悪化につながる可能性があります。
効率的に荷物を「集合させる」ことが難しいのです。既存の物流ルートを活用しつつ、効率的に荷物をまとめる方法が取れるのであれば有効な手段の一つとなりますが、なかなか条件が折り合わない事が多いのです。
まとめ
以上のように、共同配送には複数の形態があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。自社の物流戦略や業界特性を考慮しながら、最適な共同配送の形態を選択し、効率的な物流ネットワークを構築することが重要です。
そして、今後、共同配送を円滑に進めるためには情報連携やデジタル技術の活用が不可欠となるでしょう。さらに、社会課題の解決と言う観点からは、官民連携や、ハード・ソフト両面からの共通基盤整備を進める必要があるでしょう。そうすることで、より多様な共同配送の可能性が広がるのだと思います。
(この記事は、2025年11月5日時点の状況をもとに書かれました。)
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