「2025年度の経済と貨物輸送の見通し(改訂)」が2025年7月に公表 ~2024年度は実績値がほぼ確定、2025年度予測値は2回目の改訂~米国トランプ関税が発動、日本の輸出入荷動きへの影響は?

当社では2025年7月14日に、当社が年4回定期的に発行している「経済と貨物輸送の見通し」の最新版として、「2025年度の経済と貨物輸送の見通し(改訂)」を公表しました。
今回見通しは2回目の改訂版で、2025年度の貨物輸送量の予測値(対前年伸び率)を改訂。2024年度については実績がほぼ確定したため、「実績値」として掲載しています。注)
本稿ではこれまでの投稿と同様、外貿コンテナ(海運)および国際航空(航空)輸送量の見通しについて、①2025年度予測値の前回見通し(2025年4月公表)からの修正幅、②2024年度実績値(見込み値)と前回見通し予測値との誤差、③対コロナ前(2019年度)増減率の推移・見通しについて整理します。
あわせて、米国関税政策(トランプ関税)の動向を中心に、日本の国際貨物輸送を取り巻く環境変化・最新動向の影響や、次回見通しへ向けての主要なポイントについて付言します。
注)外貿コンテナ(海運)については、2025年3月分の港湾コンテナ統計が出揃わず、会計年度ベースの2024年度実績(2024年4月~2025年3月)が確定していなかったため、「見込み値」として掲載。
見通しの公表資料は、NXグループ・日本通運の年度期間(1月~12月、以下「暦年」)にあわせて、基本的に暦年ベースで作成していますが、会計年度(4月~3月、以下「年度」)ベースの予測値・見通し表も、参考値として掲載・公表しています。注) 日本ではまだ会計年度ベースの企業・機関の方が多いことから、本稿の記載内容は基本的に年度ベースとしています。
注)公表資料では、見通し表タイトル末尾に(会計年度)と表記。外貿コンテナについては「参考表5」、国際航空については「参考表6」として掲載。
※見通し最新版の公表資料は以下に掲載
https://www.nx-soken.co.jp/topics/outlook
2024年度の輸出実績・見込み値は前回予測値から下振れ
輸入は円安による下押し緩和・円高基調への転換で上振れ
2024年度の実績(見込み値)については、航空・海運ともに輸出は前回見通しを下回り、輸入は前回見通しを上回る結果となりました。とくに海運輸出は、円安効果の一巡・剥落や前年度大幅増の反動減が想定以上に早く/大きく、米国の関税政策(トランプ関税)に備えた米国向けの駆け込み需要・前倒し輸送も、中国・アジア発に比べて小規模・限定的だったことから、下期のマイナス幅は上期(1.3%減)から大幅に拡大しました。
一方、輸入については、円安による下押しの緩和・解消、円高基調への転換が追い風となり、航空・海運とも前回予測値から上振れしました。
図表1-1:前回見通しからの修正幅/修正方向(2024年度)

注1)▲:下方修正 無印:上方修正 pt:ポイント
注2)外貿コンテナは見込み値、国際航空は実績値
注3)青色マーキング部分:プラス(増加)の見通しをマイナス(減少)に変更
出所)㈱NX総合研究所「2025年度の経済と貨物輸送の見通し(改訂)」
今回見通し(2025年7月14日公表)と前回見通し(2025年4月4日公表)より作成。
2025年度予測値は輸出が下方修正、輸入が上方修正に
海運輸出は前回のプラス見通しをマイナス見通しに変更
2025年度予測値については、航空・海運ともに輸出を下方修正、輸入を上方修正しました。とくに海運輸出は通年で2.6ポイントの大幅な下方修正とし、前回のプラス維持(0.2%増)の見通しをマイナス見通しに変更。円高基調の継続による下押しや、米国トランプ政権の鉄鋼・アルミニウム、自動車への追加関税早期発動の影響を考慮しました。
図表1-2:前回見通しからの修正幅/修正方向(2025年度)

注1)▲:下方修正 無印:上方修正 pt:ポイント
注2)青色マーキング部分:プラス(増加)の見通しをマイナス(減少)に変更
出所)㈱NX総合研究所「2025年度の経済と貨物輸送の見通し(改訂)」
今回見通し(2025年7月14日公表)と前回見通し(2025年4月4日公表)より作成。
図表2-1 日本発輸出貨物の対前年伸び率・貨物量の推移
年度ベース(2004-2025年度)
①外貿コンテナ

②国際航空

注1)2024年度まで実績値(外貿コンテナは見込み値)、2025年度は今回見通しの予測値。
注2)外貿コンテナ(海運)については、主要8港(東京港、横浜港、清水港、名古屋港、四日市港、大阪港、神戸港、博多港)港湾管理者統計による輸出入コンテナ貨物量の合計値(実入りTEUベース)から算出。
注3)国際航空(航空)については、主要4空港(成田、羽田、関空、中部)の税関速報値による輸出入貨物量の合計値(トン数ベース、仮陸揚貨物除く)から算出。
出所)外貿コンテナ:各港港湾管理者統計 国際航空:各空港税関統計
航空は輸出・輸入ともにコロナ前(2019年度)水準近くに回復
海運輸入は4年ぶりにコロナ前水準を上回る
航空については、輸出・輸入ともにコロナ前水準近くに回復も、輸出は前回のコロナ前水準を回復するとの見通しを下方修正、コロナ前水準には届かない見通しに変更しました。
海運は輸出と輸入で明暗が大きく分かれます。輸出はコロナ前水準を5%超下回り、回復が一段と遠のく一方、輸入は4年ぶりにコロナ前水準を回復する見通しです。
図表2-2:日本発着国際貨物輸送量の対コロナ前(2019年度)増減率の推移

注1)2024年度まで実績値(外貿コンテナは見込み値)、2025年度は今回見通しの予測値。
注2)外貿コンテナ(海運)については、主要8港(東京港、横浜港、清水港、名古屋港、四日市港、大阪港、神戸港、博多港)港湾管理者統計による輸出入コンテナ貨物量の合計値(実入りTEUベース)から算出。
注3)国際航空(航空)については、主要4空港(成田、羽田、関空、中部)の税関速報値による輸出入貨物量の合計値(トン数ベース、仮陸揚貨物除く)から算出。
出所)外貿コンテナ:各港港湾管理者統計 国際航空:各空港税関統計
海運輸出は海外自動車市場減速と米国の自動車関税早期導入が響く
追加関税発動前の駆け込み需要・前倒し輸送もほとんど発生せず
日本発海上輸出の主要品目である自動車関連貨物(完成自動車および自動車部品)については、海外自動車・EV市場の減速感が強まる中で、米国の自動車追加関税が早期に発動したことが追い打ちとなり、低調な荷動きが続く見込みです。
今回の米国の自動車追加関税は、公表から発動までの期間が短く、3月下旬に導入が公表された後、完成自動車については4月3日、自動車部品については5月3日に発動しました。アジア・日本から北米までの海上輸送には概ね3~4週間を要するため、関税発動前の駆け込み需要もほとんど発生する余地がありませんでした。
図表3-1 自動車関連貨物と半導体関連貨物の動向・環境比較

出所)各種報道・記事よりNX総合研究所作成。
航空輸出は自動車関連の減速を半導体関連がリカバー
追加関税発動前の駆け込み需要・前倒し輸送の発生も
日本発航空輸出では、自動車関連(自動車部品)のほか、半導体関連貨物(半導体等電子部品および製造装置)が主要輸送品目となっています。半導体関連は生成AIの普及が進む中でAI関連需要の拡大が続いており、製造装置を中心に引き続き堅調な荷動きが見込まれます。主力の中国向け製造装置については、中国の半導体国産化・自給率向上政策を背景に、好調が持続する見通しです。
米国トランプ政権では半導体関連のほか、医薬品や航空機部品等についても、追加関税の導入を検討しています。これらの品目はいずれも航空輸送比率(航空分担率)が高く注)、アジア・日本~北米間の航空輸送所要日数は概ね2~3日と短いため、追加関税の発動直前まで駆け込み需要による押上げが期待されます。
注)輸出貨物における航空分担率(金額ベース)は全体で3割前後、半導体等電子部品は9割台、半導体製造装置は6~7割、医薬品は8割前後、航空機部品が5~6割で推移している。
図表3-2 海運貨物と航空貨物の動向・環境比較

出所)各種報道・記事よりNX総合研究所作成。
今後は米国USTRの新たな対中海運政策がポイントに
海運混乱・港湾混雑の悪化で航空シフト・特需の再発も
米国通商代表部(USTR)では、中国依存低下を狙った新たな海運政策を提案しています。具体的には、中国関連船(中国籍船、中国船社の運航船、中国造船所の建造船)の米国寄港時に入港料を課徴する内容で、早ければ10月中にも実施される予定です。
一方、欧州航路では中東情勢が再び悪化して紅海・スエズ運河運航の再開・正常化が後ずれしており、喜望峰経由の迂回運航が当面続く見込みです。迂回航路は航行距離・所要日数が長くなるため、大手船社・アライアンスは、米国の相互関税一時停止期間中の駆け込み需要に対応するため北米航路に転配していた船を、中国関連船を中心に欧州航路にシフトさせるとみられます。
相互関税停止期間終了から対中海運政策実施までの短期間に、配船・オペレーションが大幅に改編されて海運混乱・港湾混雑が悪化すると、海運から航空へのシフト・航空による代替輸送特需につながり、日本発航空輸出貨物量も上振れする可能性があります。
図表4 大手船社・アライアンスによる北米航路~欧州航路の配船シフト・船腹転配

注)●:マイナス・ネガティブ要因 〇:プラス・ポジティブ要因
出所)各種報道・記事よりNX総合研究所作成。
日米貿易協議・関税交渉合意で相互関税15%に引き下げも、
海運輸出のマイナス軽減・上振れに大きな期待はできず
今回見通しが公表された翌週の7月22日に、日米貿易協議・関税交渉の合意が発表されました。日本への相互関税率は7月上旬に書簡で通知された25%から15%に引き下げられ、自動車関税についても現在の25%から15%に軽減とされています。注)
今回の見通しでは、米国の対日関税は小幅な軽減・猶予にとどまることを前提としており、今般の合意内容・関税率引き下げは概ね想定の範囲内であったため、予測値にほとんど影響ありません。トランプ関税発動前に比べて関税率・関税負担が上がることに変わりはなく、海運輸出のマイナス幅が2%以内におさまる程度のわずかな効果しかないとみています。
注)自動車関税の税率は既存の基本税率2.5%に12.5%(現行の25%の半分)を加算して計15%となる。
図表5 米国トランプ政権の関税政策(国別相互関税・品目別追加関税)の動向

注1)合意文書の作成・発表予定なし。相互関税15%については、7月末にトランプ大統領が大統領令に署名、8月7日に発動予定。自動車関税15%については、大統領令未署名・発動予定日不明。
注2)米国との関税交渉合意発表は、英国・ベトナム・インドネシア・フィリピンに次いで5か国目。
その後、EUと韓国も、日本と同水準の相互関税15%・自動車関税15%にて合意発表(~7月末)。
注3)米国トランプ政権は鉄鋼・アルミニウム、自動車に続いて、銅の半製品(銅管や銅板など)に対する追加関税の導入を発表。税率は各国一律50%で、8月1日に発動。課税対象は加工品に限定され、鉱石、精錬銅などの素材は対象外に。
出所)各種報道・記事よりNX総合研究所作成。
図表6 海運・航空輸出貨物の伸び率イメージと影響を与える要因整理
上振れ・下振れ可能性

注1)米国の対日相互関税(4月公表時24%)は発動直後に90日間一時凍結され、各国一律のベースライン関税10%のみの課税に(4月10日に一時凍結、8月1日まで停止)。
注2)自動車関税(完成車)は4月3日より発動、自動車部品については5月3日より発動。
出所)各種報道・記事よりNX総合研究所作成。
日米合意で米国からの調達・輸入増の圧力が上昇
中国からの過剰輸出・低価格品流入も継続・拡大
今般の日米貿易協議・関税交渉合意の背景には、自動車やコメなどの分野における日本市場の開放があるとみられ、今後米国からの高価格品の輸入・調達増の圧力が高まりそうです。
一方、米中貿易対立・中国の内需不振が長期化する中で、中国からの輸出攻勢が一段と強まっており、中国・アジアから日本への低価格品の流入も増加する見込みです。こうした中で、海運・航空ともに輸入の伸び率は上振れする可能性が高まっています。
次回見通しは今年度最後の改訂版となります。米国の関税政策・海運政策の発動状況のほか、今般の日米貿易協議・関税交渉合意の発効状況、海運混乱・港湾混雑や航空シフト・特需の発生状況を踏まえてシナリオ・予測値を見直し、10月前半に公表予定です。
(この記事は2025年8月1日の状況をもとに書かれました。)
米国の相互関税は大統領令の署名を経て、日本を含む70か国・地域に8月7日から一斉に発動。日本については15%が一律上乗せされたため、7月22日の日米合意に基づき、EUと同様の軽減措置(既存税率15%以上の品目に上乗せなし)の対象とするよう、日本政府が修正を要請しています。自動車関税の軽減(27.5%→15%)についても、上記修正と同時に大統領令により発効する見込みですが、具体的な時期は不明です。また、前日の8月6日には、トランプ大統領から半導体追加関税の税率を100%とする案が発表されました。
8月12日が期限となっていた米中の追加関税一時停止(対中30%、対米10%への軽減)期間は、90日間再延長されることとなりました(~11月10日)。
(2025年8月12日執筆者追記)
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