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エチオピア・ケニアのモビリティ事情① ~EV普及をアフリカから学ぼう~

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今年8月、3年に一度のアフリカ開発会議(TICAD9)が開催されますが、日本人にとってはいつまでたってもなじみが薄いアフリカ。筆者は2025年に入ってからエチオピアのアディスアベバに2回、ケニアのナイロビを1回訪れる機会があり、新たなモビリティ社会を目撃しました。2022年に「フランス・パリのモビリティと都市物流事情」として日本との違いを紹介しましたが、グローバルモビリティー報告シリーズ第2弾はアフリカを取り上げます。少しでもアフリカに興味を持っていただけたら幸いです。
また、日本にも深く関係する電気自動車(EV)のリチウムイオンバッテリーの未来について改めて考える必要性を強く感じました。今回は主にエチオピアのモビリティ事情を隣国ケニアと少し比較しながらご紹介し、EVバッテリーの未来の話を考えてみたいと思います。

1.エチオピア、ケニアの基本情報

まずはエチオピア、ケニアの経済基本情報を整理しておきましょう(図表1)。
東アフリカ内陸に位置するエチオピアはあまり日本人にはなじみがないかもしれませんが、3000年以上の歴史を有するエチオピアは、欧州各国がアフリカ各国を植民化していった19世紀、欧米によるアフリカ分割の中でも侵略者との闘いをあきらめずに独立を保ちました1。エチオピアは低所得国(世銀)に分類されるも、近年は経済成長が著しく、人口も1億人を超え若年層が非常に多い国です。エチオピアの隣国ケニアは英国による植民地支配を受けましたが1963年に英国から独立しました2。日本企業も多く進出しており、名前を聞いたことがある方も多いでしょう。

図表1:エチオピア・ケニアの基本情報

図表1: エチオピア・ケニアの基本情報

(出所:World Bank3, JETRO4、NX総研調査)

今回の訪問で驚かされたのがEVの普及です。都市部においてではありますが、エチオピアでは新車四輪EVと二輪EVが普及、ケニアでは主に二輪EVが普及していました。ではこのEV普及の背景を見ていきましょう。

2.エチオピアの電気自動車(EV)の普及状況

急速なEV普及の発端になったのは、2024年1月に政府が発布した内燃機関(ガソリン・ディーゼル)完成自動車の輸入禁止令です5。欧州よりも先に、世界で初めて内燃機関自動車輸入を禁止した国となりました。さらに、2025年6月、同禁止令で免除されていたローカル組み立て内燃機関自動車用のCKD、SKDユニットについても輸入禁止となりました6

2025年3月の訪問時は路上でさほど目立たなかったEVですが、6月訪問時点では明らかにその多さが目立つようになっており、普及の速さに驚かされました。エチオピア政府は既に10万台のEVが走行していると発表しています7
主に、乗用車は24年12月に販売開始されたBYDやフォルクスワーゲンのID.6が非常に多くみられ、ToyotaのEV(bzシリーズ)もありましたが少ない印象でした。中国のGACも25年に入り参入しています。これら四輪車は完成車として隣国のジブチ港から陸送、エチオピアのMojo Dry Portを経由して輸入されたものです。また、二輪EVも急速に数を増やしており、現地組み立てを行う企業が数社います。日本人起業家が立ち上げたエチオピアの二輪EVスタートアップ企業Dodaiのオレンジ色のバイクはエチオピア国内で組み立てられ、二輪EV市場の約95%を占めダントツシェアとのこと8。これはギグワーカーのデリバリー業務用として普及が加速しています。一方、大型トラックは相変わらずガソリン車ばかりです。越境するような長距離走行EVトラックは市場に投入されていません。

Mojo Dry Port
左:チャージタイプのEV
右:バッテリースワップタイプのEV

3.EV普及の条件~アフリカEV普及は二輪から~

アフリカでEVなんてまだまだでしょう、という日本人の思い込みは今回の訪問で崩れ去りました。エチオピアの四輪EV普及状況は異例ですが、二輪EV普及はエチオピア、ケニア以外のアフリカでも広く起きている現象です。アフリカのEV市場は、中国やヨーロッパと比較するとまだ小さいですが、2025年には174億1,000万ドル、2030年には283億ドルに達すると予想されています。この市場拡大は、大陸全体で二輪EVと三輪EVの急増に起因します9。日本ではイマイチ普及しないEVが、なぜアフリカで急速に普及したのでしょうか。特になぜ二輪EVなのでしょう。中国が自国で売れないEVをアフリカに売っているのだろうという声も聞きますが、決してそれだけではないと思います。3つの要因があると考えています。

①エネルギー政策とグリーンエコノミー移行

エチオピアの内燃機関自動車禁止令発布前は、エチオピアは他アフリカ各国同様に中古車が主流で、日本からも多くの中古車が輸入されていました。政府はなぜこのような急進的な政策にかじを切ったのでしょうか。最大の動機は、エチオピアの慢性的な外貨不足と水力発電による電力の安さにあります。ガソリンは外貨で購入する必要があり外貨を消費しますが、国内の水力発電で安く発電できる(図表2)エチオアピア政府にとっては、「外貨を減らさず」、「水力発電というクリーンな電気で安く走る」EV車は一石二鳥なわけです。一方で、市民にとってもガソリン車よりも運用コストが安くなるので、EVは歓迎されています。
さらに、エチオピア政府が2011年に開始したClimate Resilient Green Economy Strategyでは、2025年までにカーボンニュートラルで気候変動に強い中所得経済を構築し、2030年までに、温室効果ガス排出量を(何も対策を講じなかった場合に比べて)64%削減することを目指しています10。ガソリン車からEVへの転換は、グリーンエコノミーへの転換目標のタイミングとも合致したのです。このように、政府のエネルギー政策の反映と、環境配慮型社会への転換期の融合がEV推進に繋がります。「フランス・パリのモビリティと都市物流事情」ブログでも指摘しましたが、行政がトップダウンかつ短期で政策を実行する、これが新しい技術や概念の普及には不可欠のように思います。
なお外貨について補足ですが、IMFと世界銀行の支援を得るため、エチオピアは管理変動相場制から市場ベースの為替制度に移行したりと、政府は外貨獲得に向けた改革を実施しており、外貨支出を抑えるだけのEV化という状況ではないようです11

図表2:電力価格比較

図表2: 電力価格比較

(出所:Tanzania Investment and Consultant Group12

②二輪車の商用利用

四輪EVよりも安価で手が届きやすい二輪EVは、ギグワーカーがバイクタクシーやデリバリー業を営む手段となります。さらに、ラストマイルデリバリー業の隆興はデジタル決済(エチオピアのtelbirr ,ケニアのMPESAのようなモバイル送金サービス)の確立、普及も寄与しているでしょう。デジタル決済により商品と現金のやり取りが確実に可能になりB to Cデリバリー需要を喚起し、デリバリー業を営もうとするギグワーカーの商用利用で二輪車需要が増えたと考えられます。近距離配送がメインの彼らの仕事の相棒として、二輪車は使い勝手が良いのです。そこにEVが市場投入されはじめ、ドライバーのニーズを満たすためにEVが貢献しました。日本やアジアでは、二輪車は以前から個人の移動手段として主に利用され普及してきたため、二輪車事情が異なっています。そもそも日本のラストマイル配送は物流事業者のトラック配送がメインですし、二輪車のデリバリーは主に特定貨物の配送になります。都心で見られる「自転車」によるラストマイルエコ配送をアフリカ人が見たら、驚愕するかもしれませんね。

③都市部など短距離移動と地域格差

EVの懸念点は充電ですが、限られたエリアを短距離走行するだけであれば、深刻な充電切れの心配はありません。新興国では都市部と郊外、農村部の経済活動の差が激しく、個人で都市間を移動するような長距離移動需要は小さく、経済活動が行われる都市内での移動にEVはちょうど良いのでしょう。現状で充電懸念が強くなる郊外までの長距離走行EVトラックの普及は考えづらく、国中に充電ステーションネットワークが張り巡らされていることが条件となります。ただ、都市内を動き回るB to C配送用トラックであれば普及可能性がありますが、そのBtoC配送は現在二輪EVが多く担っているわけです。

4.エチオピアのEV充電問題

このように急速なEV普及に伴い問題となっていたのがEV充電ステーションの不足でした。3月時点で市民に話を聞くと、充電ステーションがなく家でしか充電できないとの嘆きが聞かれました。しかし、政府・民間双方主導でインフラ投資が進んでおり、充電問題の解決も近いようです。25年1月、政府は「事業者(輸入事業、組み立て事業)にEVステーション設置義務13」を発表しました。さらに、国営企業EthioTelecomは25年2月に最初のチャージングハブを建設、稼働させました。2つ目のハブも4月に開業しています14
6月、筆者はBole空港近くのチャージングハブを訪ねました。幹線道路沿いに整備された真新しいインフラは充電中のEVでいっぱいで、ひっきりなしに車両が出入りしていました。BYDユーザーのドライバーに話を聞いてみると、今までは自宅で1晩中かけて充電していたが、この充電ステーションでは40分程度で充電できるとのこと(注:チャージャーの種類により充電時間は異なる)。ガソリン車も保有しているがガソリンが高くコストがかかりすぎるのに比べ、EV車は電力が非常に安くガソリンよりも安上がりだそうです。BYD車の乗り心地も走行距離も(1回の充電で400km走る)長く、とても満足だと嬉しそうでした。

Ethio Telecomチャージングハブ

さらに、今後民間ベースでも充電インフラ整備が今後進みます。25年6月、前述のDodaiは取り外し可能なバッテリーを搭載した二輪EVモデルを発表し、同時にバッテリースワッピング事業パイロットを開始すると発表しました。DodaiではギグワーカーがDodaiバイクを充電する場所を提供しようとしています。同社は現在アディスアベバ市内でスワッピングステーションを建設中で、2025年中に50カ所のステーションを建設計画があるとのこと15。トップシェアを誇るDodaiの充電インフラ整備により、都市部において二輪EV充電ネットワークが確保されることになります。

5.ケニアの二輪EV充電

この二輪EV用充電・スワップステーションが既に普及している隣国ケニアの状況を少し見てみましょう。ケニアでは日本の中古車が主流であることから、四輪EVはあまり見かけませんが、二輪EVはすでに広く普及しています。その背景には、デジタルマネーを使用したラストマイルデリバリーやバイクタクシーが盛んであることが挙げられます。また、ローカル生産を行う二輪EVスタートアップが複数いる(例:Roam, Ampersand, Spiro等)ことも二輪EV普及に寄与していると思います。二輪EV製造者が、充電施設やバッテリースワッピスプテーションも提供しており充電環境が整っていることも、EV普及を支える要因でしょう。3月ケニア訪問時、Ampersand のスワップステーションをナイロビ市内で見つけました。ナイロビ市内に20カ所あるとのことで、3分程度の間に、ドライバーがひっきりなしにやってきておりバッテリー回転率は非常に高いです。このステーションはガソリンスタンドの一角に設置されていました16
なお、Ampersand はAmpersand Energy’s Driver App17を提供しており、バッテリー残量の管理や利用可能なスワップステーションの把握、支払い等、ドライバーはアプリ一つで簡単に二輪EVの管理ができます。バッテリーやメンテナンスに関してソフト面でのドライバー支援が充実しているようです。

Ampersandのバッテリースワップステーションと交換の様子
Amprersand Energy's Driver Appデモ画面

四輪EVのバッテリーと異なり、二輪EVバッテリーは取り外ししやすいサイズで、その結果取り外しバッテリー型のEVモデルが多く登場していることがスワッピング普及を後押ししているのでしょう。四輪EVバッテリーのスワッピングと言えば中国のNIOが有名ですが、そのスワップステーションは、大きな仰々しい格納庫に入庫して自動でバッテリー交換されるもので、ドライバー自身で容易にバッテリー交換できないことが分かります。それに比べ二輪EVは、ドライバーが手軽にバッテリー着脱・交換が可能なのです。この手軽さも普及を手助けした要因ではないかと思います。
さて、ここまでの内容から(特に二輪の)EVバッテリーが多量に出回っている、かつ今後も激増することが容易に想像できると思いますが、危険品であるこのリチウムイオンバッテリーについて、筆者は循環経済の観点からバッテリーの静脈物流にとても興味があります。次回はEVバッテリーの今後について、考えてみたいと思います。

(この記事は2025年6月30日時点の情報をもとに執筆されました。)


  1. http://www.ethiopia-emb.or.jp/wp-content/uploads/2012/04/whamr15_2.pdf 
  2. https://www.kenyarep-jp.com/kenya/history/
  3. https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.PCAP.CD?locations=ET
    https://blogs.worldbank.org/en/opendata/world-bank-country-classifications-by-income-level-for-2024-2025
  4. https://www.jetro.go.jp/world/africa/et/basic_01.html 
  5. https://logistafrica.com/en/highlights/ethiopia-to-ban-the-importation-of-non-electric-cars/
  6. https://cleantechnica.com/2025/06/21/ethiopia-updates-ice-vehicle-import-ban-to-include-imports-of-skd-ckd-kits/
  7. https://energyforgrowth.org/article/ethiopias-EV-pivot-how-one-of-africas-least-motorized-countries-became-its-most-electrified/https://www.motl.gov.et/
  8. https://www.howwemadeitinafrica.com/how-this-japanese-entrepreneur-started-an-e-motorbike-business-in-ethiopia/175426/
  9. https://restofworld.org/2025/transsion-africa-EV/
  10. https://www.mofed.gov.et/programmes-projects/crge-facility/
  11. https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/G3MDEDS5JNOTDJ3G5VEQGLATSU-2024-07-29/
  12. https://ticgl.com/tanzanias-competitive-electricity-pricing/
  13. https://furtherafrica.com/2025/01/23/ethiopia-drives-towards-electric-mobility-EV-charging-stations-now-mandatory/
  14. https://cleantechnica.com/2025/02/16/ethio-telecom-launches-ultra-fast-EV-charging-hub-in-addis-ababa/
    https://cleantechnica.com/2025/04/11/ethio-telecom-launches-the-second-ultra-fast-EV-charging-hub-in-addis-ababa/
  15. https://theafrotimes.com/news/tech_and_travel/cb693876-c4e8-4f3b-a0ee-e23acf3c7462
  16. https://www.instagram.com/ampersandenergy/p/C6GdTI7sf-3/
  17. https://www.ampersand.solar/technology

(その他の参考資料)

https://note.com/umemoto_abp/n/n738a32d4f1db 
https://img.jari.or.jp/v=1715231558/files/user/pdf/JRJ/JRJ20240502.pdf   
https://dodai.co/about

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