295 views
公式x 公式facebook

うんこのロジスティクス-人の命に関わる真面目な話-

Avatar

シニア・コンサルタント

矢野 裕之

記事メイン画像

1.我が国において、ますます重要性が高まる「うんこのロジスティクス」

災害時における被災者への物資供給に関するロジスティクスで最も重要なのは「うんこのロジスティクス」だと思われます。過去の災害では、仮設トイレの便器からうんこが溢れるような状態になったため、避難者がトイレを使うのが嫌で水・食事を摂らないようになり、特に水の不足が原因でエコノミー症候群等になる危険性があり、また、感染症が発生しやすくなることから、最悪の場合は命を落とすこともありました。トイレが快適に使用できるかどうかは、命に係わる問題なのです。

さらに今後は、平時においても、うんこのロジスティクスの重要性が高まってくると思われます。本年(2025年)1月、埼玉県の八潮市で道路が陥没し、トラックが転落する事故が発生しましたが、その原因は地中の下水管の破損であり、その復旧には5~7年かかるとされています。そして、我が国では全国の上下水道管設備が老朽化しており、今後も同様の事故が発生する可能性が小さくないとされています。この上下水道管設備の老朽化による破損事故が発生した際には、その周辺エリアの住宅において、トイレが使用できなくなるかもしれません。八潮市の事故では、トイレの使用について深刻な制限は発生しなかったようですが、今後の同様の事故では、災害時と同じく、通常の水洗トイレが使えなくなり、その代替手段を提供するための「うんこのロジスティクス」が必要になることもあると思われます。

また、近年は、うんこを廃棄物とするのではなく、リサイクルして活用する取組みが活発化しています。本年4月に発売された「ウンコノミクス」(山口亮子 インターナショナル新書)では、うんこを肥料、雪を融かすための熱源、自動車やロケットの燃料等として活用するための技術、プロジェクト等について整理・検討しています。そういった、うんこの新たな活用事業においては、従来は無かったような、うんこの輸送や保管が必要になり、それを効率的に行うための「うんこのロジスティクス」が求められるようになってくると予想されます。

2.災害時における「うんこのロジスティクス」

我が国では、過去の災害において、断水や下水管・し尿処理施設の損壊等によって水洗トイレが使用できず、トイレ環境が悪化し、被災者の生命・健康が脅かされるという事態が度々発生してきました。

筆者は東日本大震災が発生する少し前から、災害時における被災者への物資供給に関するロジスティクス、ここでは仮に災害ロジスティクスとしますが、この災害ロジスティクスに取組み始めました。そして、水・食料等の必要度が高いと思われる物資の災害時における供給体制等について検討していたのですが、それを見ていた阪神・淡路大震災で避難所生活を経験した女性の同僚から、吐き捨てるように、「災害時に本当に必要なのはトイレだよ」と言われ、ようやっと災害時にトイレ環境を良好に保つための「うんこのロジスティクス」の重要性に気づきました。そして調べてみると、阪神・淡路大震災の後に発生した新潟県中越地震、新潟県中越沖地震でも、トイレ環境の悪化によって被災者が苦しんでいたことが分かりました。その後、東日本大震災、平成28年熊本地震等が発生しましたが、やはり、避難所におけるトイレ環境の劣悪さが問題となり続けました。そして、その状況は、最近発生した能登半島地震でも変わらなかったのです。つまり、この何十年もの間、「うんこのロジスティクス」の活用状況はほとんど改善されてこなかったということです。そこで、被災地のトイレ環境において、どのような問題が発生し、その解決のために、どのような対応策が取られていたかを以下に整理したいと思います。

まず、断水や上下水管・し尿処理施設の損壊等によって水洗トイレが使えなくなった場合、過去の災害では、図1のような仮設トイレが使用される傾向にありました。

図1 仮設トイレ

図1 仮設トイレ

出所)避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン(内閣府 平成28年)

しかし、仮設トイレの輸送には時間がかかり、そして人間は水・食料はある程度我慢できても、排泄が我慢できません。そのため、使えない水洗トイレを無理に使い、うんこが溢れる事態となります。特に、能登半島地震では道路の損害が激しく、仮設トイレの輸送にさらに時間がかかることになりました。たとえば、「能登半島地震対応における災害トイレの現状と今後の課題」(一般社団法人 日本トイレ協会 「消防防災博物館」HPより)道路状況が悪いために4t 車での移動が難しく、金沢の中継地点までは大型トラックで運び、金沢から2t 車に積み替えて輸送を行った為、一度に運べる棟数が少なく輸送効率が非常に悪かったとしています。
また、道路が激しく損壊した個所では、一部が崩れている道路を夜間走行し、昼間も土砂崩れが発生している脇の道を走行する必要がある等、常に危険を伴う輸送となりました(図2)。

図2 仮設トイレ輸送時の道路状況

図2 仮設トイレ輸送時の道路状況

出所)「能登半島地震対応における災害トイレの現状と今後の課題」
(一般社団法人 日本トイレ協会 「消防防災博物館」HPより)

このように苦労して仮設トイレを設置しても、仮設トイレは汲み取り式であり、糞尿をくみ取る必要があります。この汲み取りは自治体の仕事ですが、発災後の混乱した状況では、自治体もなかなか汲み取りに来てくれません。その結果、仮設トイレにおいても、うんこが溢れる状況になります。また、この仮設トイレは、屋外に設置されるため、寒い時期には利用者の負担が大きい、特に夜間は女性・子供にとって危険性が高い等の問題もあります。さらに、仮設トイレは和式が多く、高齢者や車いすの障害者の方等には使いにくいことが指摘されています。
その解決策としては、携帯トイレ、簡易トイレの使用が考えられます。携帯トイレとは排泄物を入れる袋と、臭い消し、消毒用の薬剤がセットになったものであり、簡易トイレは、この携帯トイレに簡易的な便器をセットにしたものです(図3)。

図3 簡易トイレの例

図3 簡易トイレの例

出所)「能登半島地震対応における災害トイレの現状と今後の課題」
(一般社団法人 日本トイレ協会 「消防防災博物館」HPより)

いずれのトイレにおいても、排泄物は小さな袋の中に入るため、これを自治体ごみとして出せます。なお、多くの自治体は燃えるゴミとして出せるようですが、この点については地元自治体への確認が必要です。ただ、この排泄物が入った袋を屋外に集積していると、カラス等が穴を空けて排泄物が漏れ出す危険性があるため、物流事業者からフレコン等を提供し、その中で保管することが望まれます。
また、簡易トイレを使用する場合、周囲を囲む目隠しが必要ですが、専用のテント(図4)が簡易トイレとセットになっている商品があるため、それを利用すれば、屋内にトイレを設置することができます。

図4 トイレ用テントの例

図4 トイレ用テントの例

出所)アマゾン社HP

以上のような検討結果から、筆者としては、避難所には簡易トイレとそれにセットされたテントを供給することが望ましいと考え、当社が受託し、筆者が作成した「ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック」(国土交通省 平成31年)において、そのように記載しました。だが、その後、思わぬ盲点があったことに気づかされたのです。具体的には、女性から、テントの中での動きが影になって外から見えるとの指摘があったことが分かりました。その解決策として開発されたのが、図5の「ほぼ紙トイレ」です。名前の通り、ほとんどが紙でできているため、軽量で、女性でも短時間で組立てることができ、屋内への設置も可能です。ただし、汲み取り式であるため、簡易トイレと組み合わせることが望ましいと思われます。

図5 ほぼ紙トイレ

図5 ほぼ紙トイレ

出所)桜井ファクトリーソリューションHP

このように、災害時における快適なトイレ環境の確保のためのノウハウ・機材の活用方法等、すなわち「うんこのロジスティクス」は、過去の災害における経験を反映して、より実効性の高いものに洗練されてきました。だが、能登半島地震が発生したエリアでは、この「うんこのロジスティクス」に関する知識が十分に共有されておらず、携帯トイレ・簡易トイレ等は十分に備蓄されていませんでした。そのため、一つの携帯トイレを4~5人で使いまわすような事態も発生していたのです。

今後は、将来的な災害において、能登半島地震のような状況を再発させないように、「うんこのロジスティクス」に関する知見を十分に生かし、備えておくことが望まれます。たとえば、東京都では、本年(2025年)2月14日に、「東京トイレ防災マスタープラン(素案)」を発表しました。このような取組が多くの自治体に広まることが望まれます。また、何より住民自身が、各家庭において、十分な量の携帯トイレ・簡易トイレを用意しておくべきと思われます。避難所に到着するまで、排泄が我慢できるとは限りません。避難所に到着しても、トイレ関連物資が届くまで時間がかかるかもしれません。でも、うんこは待ってくれません。うんこのリードタイムはとても短いのです。

3.平時における「うんこのロジスティクス」

(1)社会インフラ老朽化による事故発生時の「うんこのロジスティクス」

上下水道管の老朽化等による事故を原因として、近隣住宅においてトイレが使用できなくなった場合には、災害時における「うんこのロジスティクス」が活用できると思われます。上下水道管の老朽化による事故が原因の場合、近隣住宅のトイレの便器は使用可能と予想されるため、携帯トイレの使用が適切でしょう。また、よりトイレ環境を向上させようとするなら、図6のようなラップ式トイレを用意することも考えられます。ラップ式トイレとは、排泄物を入れた袋を機械的にラップするトイレです。価格が約10~20万円と比較的高価ですが、水洗トイレに近いトイレ環境を入手できると思われます。電力を必要としますが、上下水道管の破損を原因とした事故ならば、電力は使用できる可能性が高く、また、予備のバッテリーを使用できます。

図6 ラップ式トイレ

図6 ラップ式トイレ

出所)コクヨ社HP

(2)リサイクルにおける「うんこのロジスティクス」

前出の書籍「ウンコノミクス」では、(山口亮子 インターナショナル新書)では、既に述べたように、うんこを肥料、雪を融かすための熱源、自動車やロケットの燃料等として活用するための技術、プロジェクト等について整理・検討しています。これらの取組みは、単に新たな収益手段の創出というだけではなく、我が国が直面している切迫した課題の解決の必要性を背景としているものが多い状況です。たとえば肥料について、我が国はほとんど輸入に頼っているのですが、近年は輸出国が自国内で使用するために輸出を制限するようになってきました。そのため、我が国でも国内で肥料を確保することが望まれており、過去の日本で行っていたような、うんこの肥料としての再利用が必要とされるようになってきているのです。なお、うんこの肥料としての再利用については、前首相である岸田氏の鶴の一声で国として取り組むようになったとのことです。また、これは本ブログを執筆中の4月25日に確認されたニュースなのですが、千葉県の木更津市で、下水処理場で処理する下水汚泥(うんこを処理したものです)の全量を堆肥(たいひ)にして製品化する事業に取り組み、堆肥化施設は2027年4月からの稼働を目指しているとのことです。同市の下水道推進室によると、一自治体の下水汚泥をすべて堆肥にして製品化する試みは、全国でも極めて珍しいとのことです。

このような、うんこのリサイクルによる新たな事業を実現しようとする場合、従来に無かったような、うんこの輸送・保管等が必要になり、それを効率的に行うための「うんこのロジスティクス」の必要性が高まると思われます。たとえば、江戸時代は都会で発生した糞尿を肥料とするために農村へ送るため、うんこのサプライチェーンが構築されていたのですが、このサプライチェーンが伸びるにしたがって仲介事業者が増えて手数料が増加したため、うんこの価格が上昇して農民が困ったという事例を「ウンコノミクス」では紹介しています。このような問題は、現代のうんこ以外の物資のサプライチェーンでも発生することがあると思われ、現代において、うんこのサプライチェーンを構築する際には、現代のロジスティクスに関する知見が有効に活用されることが期待されます。
また、同じく「ウンコノミクス」によれば、戦後になっても、うんこの鉄道輸送が行われていたが、無蓋車で輸送していたため臭いがひどく、汚穢(おわい)列車、黄金列車と言われていたそうです。そのような問題を解決するための輸送技術の開発・活用も、「うんこのロジスティクス」と言えるのではないでしょうか。

4.おわりに

能登半島地震においては、過去の災害の経験に基づき構築されてきた「うんこのロジスティクス」が十分に生かされず、トイレ環境は劣悪であることが多く、そのために被災者の生命・健康が脅かされるという事態が繰り返されてしまいました。今後は、「うんこのロジスティクス」について国民に十分に周知され、また、自治体・住民において十分な数の携帯トイレ・簡易トイレの備蓄を進めることが望まれます。さらに、可能ならば、トイレカーの導入等のより費用の大きい取組みも求められるでしょう。これは、平時の上下水道管の損壊等の社会インフラに関する事故でも同様です。また、うんこの新たなリサイクル事業においては、その事業の円滑化に資するような、新たな「うんこのロジスティクス」の検討が望まれます。

(この記事は、2025年4月25日時点の状況をもとに書かれました。)

掲載記事・サービスに関するお問い合わせは
お問い合わせフォームよりご連絡ください

お問い合わせ

矢野 裕之が書いた記事

この記事の関連タグ

関連する記事

Pick Up

  • ろじたん
  • じょぶたん
  • どらたん
  • 物流eカレッジ

Contact

サービスや採用など、
まずはお気軽にお問い合わせください