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NX総合研究所が独自に行ってきた調査・分析の研究レポートを公開しています。

ロジスティクスレポート No.19

“大規模かつ広域的な地震災害”に対応した「震災ロジスティクス」のあり方

このたびの東北地方太平洋沖地震により被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。また、今回の東日本大震災において、救命・救援、そして復旧に懸命な努力を続けられている方々に深く敬意を表する次第です。
弊社、株式会社NX総合研究所では、震災後、宮城県内に研究員を派遣し現地の物流状況の調査を行なっています。このような情報収集等に基づき、被災者の方々の救命・救援、生活再建や、地域経済の復旧・復興、我が国全体の防災に資するよう、震災時の物流のあり方の提案・提言を行なっていく所存です。
今後、被災地の現状とこれまでに生じた問題、今後の望まれる展開などを「震災ロジスティクス」としてまとめ、弊社ホームページ上で適宜レポートを発信いたします。

第5報~東日本大震災によるわが国生産・調達システムへの影響~

          

はじめに

2011年6月発表の日通総研ロジスティクスレポート№16(『”大規模かつ広域的な地震災害”に対応した「震災ロジスティクス」のあり方』、第2報~被災地復興に向けた物流再構築へのロードマップ)では、サプライチェーンの障害の発生状況、今後のサプライチェーンのあるべき姿、そしてサプライチェーンを支え、被災地の経済復興を後押しする物流再構築に向けてのロードマップについて提言を行った。
本稿は、その続編として、東日本大震災(以下、「震災」と記す)の発生がわが国における生産・調達システムにどのような変化をもたらすであろうかについて、荷主企業に対するアンケート調査をもとにとりまとめた。

1.アンケート調査の趣旨と実施概要

わが国においては、経済・社会の成熟化に加え、雇用・所得環境の悪化などもあって、国内需要の伸び悩みが続いており、さらには少子高齢化の進展や人口の減少等を勘案すると、将来的にも国内の市場規模には頭打ちが予想される。このように国内市場規模の先細りが避けられないなかで、大きな成長が期待できる新興国など海外市場に活路を見出そうとしている企業は多い。
また、大手自動車メーカーの経営者は、円高、高い法人税率、貿易自由化の遅れ、労働規制、環境規制の5つを国内生産における「5重苦」と呼び、政府に対し、適切な対応を求めてきた。すなわち、日本においては、上記項目が国内生産にかかるコストを押し上げ、国際競争力を低下させる要因になっており、これらが是正されなければ、海外展開を志向する企業がますます増加するであろうことを示唆している。
さらに3月に発生した震災が、そうした企業の海外志向にさらに拍車をかけることになりそうだ。放射能汚染の危険性に加え、原子力発電所の操業停止に伴う電力不足の懸念、さらにはリスク回避のための生産拠点や調達先の分散の動きなどがその要因としてあげられる。最近では、上記の5重苦に電力不足が加わり、「6重苦」とも言われるようになってきた。
震災の発生がわが国における生産・調達システムに変化をもたらすことは必至である。そこで、NX総合研究所は、6月上旬に荷主企業(製造業、卸売業)2,500事業所に対してアンケート調査を実施し、震災の発生に伴う、1.東北地方における生産の国内他地域・海外へのシフトの動き、2.原材料・部品・製品等の調達先の東北地方から国内他地域・海外へのシフトの動き、3.生産・調達を国内他地域・海外へシフトする理由について把握した。
なお、ここでのシフトとは、東北地方での生産・東北地方からの調達を中止、または規模を縮小し、他地域での生産・他地域からの調達を開始・拡大することを指し、緊急避難的な措置として、一時的に他地域での生産・他地域からの調達を拡大するケースについては除外している。
調査結果は以下のとおりである。  

2.東北地方における生産の国内他地域・海外へのシフトの動き

東北地方で生産を行っていた事業所に対して、東北地方での生産を国内他地域・海外にシフトする動きについて尋ねたところ、回答事業所数177件(複数回答)のうち、「現状のまま東北地方での生産を継続する」との回答が134件(75.7%)と、全体の約4分の3にとどまった。
一方、「東北地方以外の国内他地域に生産の一部(全部)をシフトする」は14件(7.9%)であり、主なシフト先をみると、中部地方および九州地方がそれぞれ4件で、概ね関東以西に集中している。
また、「日本以外の国に生産の一部(全部)をシフトする」は4件(2.3%)と少ない。シフト先の国・地域としては、中国、韓国、東南アジアがあげられた。
なお、業種別にみると、国内他地域または海外に生産をシフトする意向が強いのは電気機械器具製造業であり、回答事業所数36件のうち、延べ数で8件(22.2%)がシフトの意向を有している。
このほか、「現状では決めかねているが、将来的には他の地域・海外にシフトする可能性もある」が9件(5.1%)、「まだ分からない」が17件(9.6%)となっている。

図
3.原材料・部品・製品等の調達先の東北地方から国内他地域・海外へのシフトの動き

東北地方から原材料・部品・製品等を調達していた事業所に対して、原材料・部品・製品等の調達先を東北地方から国内他地域・海外にシフトする動きついて尋ねたところ、回答事業所数500件(複数回答)のうち、「現状のまま東北地方からの調達を継続する」は242件(48.4%)と過半数を下回った。
一方、「東北地方以外の国内他地域に一部(全部)の調達先をシフトする」は126件(25.2%)に達している。なかでも、電気機械器具製造業(26件)および化学工業(23件)といった業種において、調達先をシフトする事業所が多いほか、件数自体は少ないものの、消費財卸売業においては、回答事業所数13件のうち6件(46.2%)が調達先のシフトを検討している。また、主なシフト先をみると、概ね関東以西に集中しており、中部および関西がそれぞれ9件、関東が8件、中国が6件、関西以西が5件などとなっている。

図

また、「日本以外の国に一部(全部)の調達先をシフトする」は50件(10.0%)であり、業種別にみると、電気機械器具製造業(13件)、化学工業(10件)などにおいて海外からの調達意向を有している事業所が多い。主なシフト先の国・地域としては、中国が圧倒的に多く、次いで韓国、米国、東南アジアなどが多くあげられている。
このほか、「現状では決めかねているが、将来的には他の地域・海外にシフトする可能性もある」が67件(13.4%)、「まだ分からない」が45件(9.0%)となっており、今後の国内における電力不足の状況等によっては、調達先を海外にシフトする動きがさらに強まる可能性がある。

4.生産・調達を国内他地域・海外へシフトする理由

上記の設問において、生産または調達の一部または全部を東北地方から国内他地域・海外にシフトすると回答した理由について尋ねたところ、回答事業所数171件(複数回答)のうち、最も多かったのが「生産・調達を行っていた拠点が廃業したため、あるいは、生産・調達を行っていた拠点における生産活動の再開の目処がたたないため」(92件;53.8%)という回答である。
また、「リスク回避策として、生産や調達先をより分散するため」(86件;50.3%)についても、過半数の事業所がシフトの理由としてあげている。
上記の2つの理由は、全業種においてほぼ満遍なくあげられており、生産拠点や調達先の廃業といった物理的な理由と併せて、異常時におけるサプライチェーンの寸断というリスクを回避するという観点からも生産・調達先を分散させたいという意向が窺える。
次いで、「東北地方において今後電力不足が予想され、生産活動が停滞する懸念があるため」(27件;15.8%)、「今後も余震等により、生産活動が停滞する懸念があるため」(22件;12.9%)、「本社・親会社・取引先の指示による」(22件;12.9%)といった回答が多い。
なお、東北地方における電力不足を理由にあげているのは、とくに電気機械器具製造業(8件)や電力多消費産業である化学工業(7件)において多い。
一方、「もともと生産・調達先を海外にシフトする意向があったため」は12件(7.0%)にとどまっている。先の設問において、「日本以外の国に生産の一部(全部)をシフトする」との回答が4件、「日本以外の国に一部(全部)の調達先をシフトする」との回答が50件あったことを勘案すると、震災の発生が生産・調達先を海外にシフトさせる大きなきっかけとなった事業所が多いことが分かる。

図
5.まとめ

本調査結果における特徴的な事項を以下に示す。

①厳しい状況下にある東北地方の生産体制
生産サイドにおいては、現状のまま東北地方での生産を継続したい事業所が約4分の3にとどまった。さらに調達サイドにおいては、現状のまま東北地方での調達を継続するとした事業所は過半数を下回り、生産、調達の両サイドとも”東北離れ”の意向が強いが、調達サイドにおいてその傾向がより顕著に表れている。
生産する側の事業所においては、生産拠点数を増やすことは生産コストの増加につながる可能性があり、ましてや新規の海外展開に対して二の足を踏むケースもあろう。一方、調達する側の事業所では、調達先の分散により調達コストが多少増加する可能性はあるものの、自社のステディな生産・出荷体制を確立するためにはやむをえないと捉えている。その結果、上記のように、”東北離れ”の意向が調達サイドにおいてより強く表れたものとみられる。
このような傾向は、東北地方に対する需要の減退につながり、さらなる生産シフトを引き起こす「負の連鎖」を発生させかねない。まさに、東北地方の生産は存亡の瀬戸際にあると言えよう。

②震災の発生が引き金となり、「生産・調達先の海外へのシフト」の動きが加速
前掲のとおり、「日本以外の国に生産または調達先をシフトする」との回答件数が、「もともと生産・調達先を海外にシフトする意向があったため、海外にシフトする」との回答件数を大きく上回っていることから、震災の発生が生産・調達先を海外にシフトさせる大きなきっかけとなった事業所が多いことは明らかである。
当初、夏場における電力不足は、東北および関東地方に限定された問題と捉えられていたが、その後、相次ぐ原子力発電所の操業停止を受けて、電力不足に対する懸念は全国規模に拡大している。そうしたこともあって、一方で東北地方への回帰の動きが出てくる可能性があるものの、他方で生産・調達先を海外にシフトせざるをえないと考える事業所が拡大する可能性が高まるとも考えられる。言い換えれば、震災の発生が引き金となり、リスク回避のため、生産・調達先を海外にシフトする動きが加速され、さらに電力不足により拍車がかかる可能性が高まったということができる。

本調査結果から導出される最悪のシナリオは、東北地方における生産拠点が最大で約4分の3に減少し、また東北地方からの原材料・部品・製品等の調達が最大で約半分に縮小するというものである。
いっこうに原発事故の収束の目処が立たず、復旧・復興も遅れているなかで、このままの状態が続くならば、多くの企業が東北地方からの撤収を余儀なくされる事態が起こりかねない。しかし、そうした最悪の事態は絶対に回避しなければならない。そのためには、政府は早急に復旧・復興後のグランドデザインを描く必要がある。さらには、復旧・復興に向けた積極的な公共投資の実施に加え、民間企業による復興支援策を助成し、東北地方における生産活動に対してインセンティブを付与するシステムを構築すべきだ。
トヨタ自動車は東北地方の復興支援の目的もあって、エンジン工場の新設を決めた。次に続く企業が待望される。今まさに、”モノ作りニッポン”の正念場なのである。

(担当:経済研究部 佐藤 信洋)

発行|2011年8月5日
株式会社 NX総合研究所(発行当時 株式会社 日通総合研究所)
〒101-0024 東京都千代田区神田和泉町2番地

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